マルドゥック・ヴェロシティ (1)(2)(3)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・スクランブル」の続編にして、時間軸はそれよりも過去のお話。前作では敵役として登場したディムズデイル・ボイルドが虚無と契るお話。助詞、助動詞の代替として記号を使った特異な文体とか、“普通”を一切排除した狂った幾人もの登場人物とか、四つの家系が自らの遺伝子を争って錯綜する血と暴力にまみれた人間関係とか、真実と共に絶望的なほど加速していく悲壮感とか、その中で芽生える一厘の愛とか。唯一無二の名作だった前作と甲乙つけがたい完成度でした。ハードボイルドとサスペンスに飢えている方は是非。


ただボイルドが虚無へと加速、落下していく作品なのに、自分がその中で受け取ったのは一つの愛の形でした。と言うのは……以下ネタバレ。




何よりシザースの“人格共有”という設定が好き。最初はただの情報共有でしかないと思ってたけど、ナタリアの告白で悟ってしまった。

「私が死んでも忘れられることはないし、私のベイビーのことは心配ないし、あなたへのこの気持ちは私が死んだ後もシザースが忘れずにいてくれるし。」
―ナタリア・ネイルズ


死んでも自分の想いは消えずに誰かの心の中で生き続けることを望む。これもきっと一つの愛の形。


(購入)