神様のパズル

神様のパズル

神様のパズル

落ちこぼれ大学生の綿貫と天才少女の穂瑞が卒業ゼミのテーマに選んだのが「人間に宇宙が作れるかどうか」。なんだかふざけてるように聞こえるかもしれないけど、かなり真面目に物理学的見地から宇宙を作るにはどうすればいいかを考察している。果たして本書で紹介されてる方法が正しいのかどうかはわからないし、内容も専門的すぎて半分も理解できなかったけど、壮大な疑問に対してとことん取り組んだ意欲作。


そしてこの小説の一番好きなところは保瑞が宇宙の原点を知ろうとしたのは自分の原点を知りたかったから、という設定。宇宙の作り方を模索する中、行き詰まってはその度に自分を見失う穂瑞。宇宙がどうやってできたのかもわからずに生きているなんて。それは自分がどうやって、なんのために生まれたかもわからずに生きているということだ。そして彼女にはそれが耐えられなかった。だから物理を選び、宇宙の原点を求めた。物理とは読んで字の如く“物の理”を探求する学問である。その“物”の中には地球も、宇宙も、そして人間も入っている。物理と哲学は目指すところは同じなのだ。ただそのアプローチが違うだけで。その物理の本質が明確に作中に現れている。


ただ、ここからはちょっとネタバレになるけど、作中で穂瑞がシミュレーションで生み出した擬似生命に対して彼らはただの“1”と“0”と“-1”の配列であり、実体のない情報の塊だと言った。連中の本質は“無”であると言った。それって言い換えれば神から見た人間なのではないだろうか。つまり人間というのは神、もしくはそれに相当する存在が作り出したただの情報の塊であって、そもそも我々に存在意義など存在しない。ただ生み出され、消えるだけの存在。結局我々の本質も“無”なのだから。でもなぜ穂積はこのような発言をしながらそのことに気付かなかったのだろうか。それとも無意識のうちにそのことを認めなかったのだろうか。


そうやって自分の存在そのものに疑問を抱きながらも宇宙の真理を求める穂積の姿が繊細に描かれた、人間の存在意義を問いながら物理の本質を突いた青春SF物語。ちょっとした名作。

「私は一人で考えごとをする時間が多くなった。すると、自然と頭に浮かんでくるのだ。自分とは何か――。気がついたら生まれていて、わけも分からずに生きて、死んでいくだけの存在――この自分は、一体何のために今生きているのか。勉強すれば分かると思った。それで私は、物理を選んだ。物理は裏切らないからね」


(図書館)