となり町戦争 / 三崎亜記

となり町戦争

となり町戦争

となり町との戦争が始まった。しかし「僕」の日常に変化はなく、町の広報に載る戦死者の数だけが戦争のリアルを伝える。そしてやがて「僕」はとなり町の偵察任務を言い渡されるが……小説すばる新人賞受賞の作品。


いやはや、名作でした。戦争と聞いて『図書館戦争』みたいなエンターテイメントを安易に想像したんだけど、全く異なるリアリティ溢れる作品でした。とにかく現代における戦争像が鋭く捉えられている。こうしている間にも世界のどこかで戦争は続いていて何人もの人が死んでいるのに、どんなにそのニュースを見ても我々に取ってそれは所詮他人事。でも実際に戦争は起きている。その“現実味のない現実世界”に苦悩する主人公が才能溢れる文体で気持ち悪いほどリアルに描かれている。主任のこの物語における役割がちょっとわからなかったけど、香西さんとのラストシーンなんかステキ。オススメの一冊。


ついでに、これはいつか映像化されるなあと思ってたらもう既にDVDが発売されてた。でも主役が江口洋介。いやあ、それはミスキャストだよ。「僕」はもっと普通の人だよ。

考えてみれば、日常というものは、そんなものではなかろうか。僕たちは、自覚のないままに、回りまわって誰かの血の上に安住し、誰かの死の上に地歩を築いているのだ。
ただそれを、自覚しているのかどうか、それが自分の目の前で起こっているのかどうか。それだけの違いなのではなかろうか。僕はもう、自分が関わったことが戦争であろうが、なかろうが、そんなことはどうでもよくなった。