神様のカルテ / 夏川草介

神様のカルテ

神様のカルテ

一人の医者とその細君、御獄荘の住人、そして患者さんたちとの人情物語。作者の夏川さんは実際に作品の舞台である信州の病院で医療に従事されている方。信州という極寒の土地と、そこに住む一止たちの温かい心とのコントラストが印象的な作品でした。読む人を選ばない良作です。

「明けない夜はない。止まない雨はない。そういうことなのだ、学士殿」

思えば人生なるものは、特別な技術やら才能やらをもって魔法のように作り出すものではない。人が生まれおちたその足下の土くれの下に、最初から埋れているものではなかろうか。
(中略)
迷うた時にこそ立ち止まり、足下に槌をふるえばよい。さすれば、自然そこから大切なものどもが顔を出す。
そんなわかりきったことを人が忘れてしまったのは、いつのころからであろうか。