天地明察 / 冲方丁

天地明察

天地明察

名作中の名作『マルドゥック・スクランブル』とは打って変わって、稀代の天文暦学者にして囲碁棋士神道家、算術家である渋川春海の生涯を描いた時代小説。というより大河小説。


なんとなくサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』に通じるものがある。もちろんそこまで学術的な内容ではなく、各キャラクターが生き生きと描かれるエンターテイメント小説だが、現代の私達にとって当たり前の事実(本作の場合は暦)が、紆余曲折の難産の末に生まれる感動を申し分なく伝えている点では同じような気がする。特に暦は、現代でもまだ謎が多い宇宙を相手とする学問なだけに、その壮大な宇宙に勝負を挑む渋川春海の姿には少なからず勇気づけられる。「はやぶさ」プロジェクトが多くの人に感動を与えたことは記憶に新しいが、こういった一大事業はまさに小説よりもスペクタクルなりだ。


去年の本屋大賞を取ったぐらいだから誰が読んでも良書だろうが、やはり理系の方のほうが感情移入できるだろうな。


加えて余計なお世話で、これから読まれる方は将軍や老中、藩士などの役職の関係をある程度把握した上で読むとより楽しめるかも。無学な自分はいまいちそれらの上下関係がわからずに苦戦しました。


参考:

天地明察冲方 丁
http://www.kadokawa.co.jp/sp/200911-06/index.php

たかが暦だと何度も自分に言い聞かせねばならなかった。そして、されど暦だった。
今日が何月何日であるか。その決定権を持つとは、こういうことだ。
宗教、政治、文化、経済――全てにおいて君臨するということなのである。