地球移動作戦 / 山本弘 / ★★★★★

地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

著者は『詩羽のいる街』の山本弘氏。


読んでてとにかく感じたのはSFの面白さ。辻村深月のミステリーや本谷有希子の(ちょっとオカシイ)ドラマ、森見登美彦のプチファンタジーも好物だが、やはりSFは格別だ。現実を舞台とした作品はどこか第三者的な目線、言うなれば主人公の友人として話を聞くような感覚で楽しむ。一方で本作は数ページ読み進めただけでもう完全にその世界に引き込まれてしまった。例えばACOM*1が開発されたら姿形は黒猫(C.V. 田村ゆかり)のにするだろうとか、そんな妄想が駆け巡る。そんなまさに現実逃避の時間を提供してくれるのがSFであり、そこにこそ悦楽を感じるのだ。


小説自体は一言で言うなら「巨大な何かが地球に衝突するから地球を移動させて避けようぜ」的な内容。理工学的知識がふんだんに用いられてて本格的に楽しめます。


それにしてもこの作品を書き上げるのに相当量の参考文献を読んだんだろうなと思うと、ちょっと感嘆するわ。

起こりえないことだった。広大な宇宙で惑星同士がこんなに接近するという事件が、たまたま人類が栄えている今という時代に起きるなどとということは。宝くじの一等が二度続けて当たるぐらいの、あるいはサイコロを振って十数回続けて六の目が出るぐらいの、途方もない偶然。まさに悪夢。だが、それは起きるのだ。
地球は破滅する。

今夜は月は出ていない――いや、もう一○○日以上も、地球の軌道上に月は存在していない。地球を動かす前に、まず月を移動させる必要があったのだ。

そうだ、死亡フラグなんてあるものか。人の運命は決まってなんかいない。人間は地球さえも動かした。何かを成し遂げたいという意志があれば、不可能も可能になるのだ。

*1:人工意識コンパニオン