神は沈黙せず / 山本弘 / ★★★★☆

神は沈黙せず

神は沈黙せず

幼い頃に洪水で両親を亡くした兄妹、和久優歌と和久良輔。なぜ自分たちの両親が死ななくてはならなかったのか。なぜ神は善意ある人間を殺すのか。二人は納得のいく答えを探し求める。そしてニ〇十二年十一月二十八日午後八時四四分三〇秒。突如、天空に「神の顔」が出現した。果たして神の意図とは。人類が創造された意味とは。神とのコンタクトは叶うのか。人類の永遠のテーマに科学を持って挑んだ一大スペクタクル。


いやあ、長かった。神の意図を証明するために過去のありとあらゆる事象が調べられていて、巻末の参考文献の数が半端ない。そう、まるで論文。こうしてひとつの作品にこれだけの労力と思考を費やせるのはただただ尊敬に値する。確かに小説にここまでする必要があるのか、冗長な感じがしなくもないが、でもこの紙の重みが、この作品に対する山本弘さんの想いなのだろう。


神の意図。神という事象自体は非科学的だが、だからこそむしろ科学者たちにとっては永遠のテーマなのだろう。作中ではひとつの解が与えられていて、それを信じるかどうかは読者次第だが、個人的には同じような考えだった。とは言っても私のは科学的根拠になど基づいておらず、幾多の小説を読んで(つまり第三者の妄想を聞いて)出した答えなんだが。


『アイの物語』のときもそうだったけど、とにかく作品自体が深く、本質的なので、それだけ読んでいるこっちの頭の中にも様々な想像を誘発する。こうして思考の循環が出来上がるのが、山本弘さんの作品の最大の魅力なのかも。ゆっくり誰かと語り合いたい作品でした。

よく「人の生命は地球より重い」などという。しかし、そんな抽象的な表現では、かえって生命の重みが分からなくなると思う。だから私はこう言いたい。
「あなたの人生は、あなたが今手にしている本の何十倍もの厚みがある」
そう考えれば、少しは生命が愛おしく感じられるのではないだろうか?

確信を抱くのがいちばん危ない。常に『自分は間違ってるんじゃないか』『論理ではなく盲信で動いてるんじゃないか』と問いかけることです。自分が間違っている可能性を探すこと。それが道を誤らないための唯一の方法です

僕は――いや、世界中の人間はみんな、大きな誤解をしていた。人間は知的存在だ。神の目的は人間を創造することだった……ってね。なんて傲慢だったんだろう!

そうだ、非創造物が創造者に敬意を払う必要などない。特に創造者が尊敬に値しない存在である場合には。


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