いとしのヒナゴン / 重松清 / ★★★☆☆

いとしのヒナゴン

いとしのヒナゴン

ネス湖ネッシー。ヒマラヤのイエティ。日本のツチノコ。そして広島県は比奈町の「ヒナゴン」。そのヒナゴンが30年ぶりに目撃された。比奈町は「町役場類人猿課」を設立し、本格的にヒナゴン捜索に繰り出す。しかし一方で比奈町の財政は火の車状態、いつ破綻してもおかしくない。進む備北市との合併。はじまる次期町長選。比奈町を巡る町民たちの“奮闘”を描いた作品。


装丁だけ見たらもう確実に棚に戻すレベル。でも重松清だし、Amazonの評価は異常なほどいいし、そのギャップも気になって拝借。市町村合併という現実的で重い問題と、ヒナゴン捜索というファンタジーでコミカルな要素をうまく織りまぜながら、比奈町民の郷土愛が温かく描かれている。都会に生まれ、引っ越しも何度か繰り返し、明確な“ふるさと”を知らない自分にはその地元愛が少しばかり羨ましい作品でした。

片山市長のあとについて部屋を出る西野くんを、江藤課長はじめ他のメンバーは、やっかみに満ちた視線で見送った。ずっとそういう視線と戦ってきたんだ。西野くんは。比奈の若手のたった一人の代表として、誰にも相談せずに、相談できる相手もいないまま、一人で比奈の将来のことを考えてきたんだ。孤独なひと――でも、ずっとあとになってその話を知ったとき、わたしはあなたのこと、ちょっとカッコいいと思ったんだ。


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