虐殺器官 / 伊藤計劃 / ★★★★☆

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

サラエボが第三の核によって消滅し、戦争がアウトソーシングされるような時代。先進国では最先端技術を駆使した対テロ管理体制が整備される中、後進諸国では次々と内争が勃発し、民族虐殺が繰り広げられていた。その背後で暗躍する一人の男、ジョン・ポール。アメリカ情報軍特殊検索郡i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は彼の暗殺を命じられるが――やがて明らかになる“罪と罰”。果たして大量殺戮の目的とは。


自らの正義を疑わず、“罰”を執行する一人の男と、自らの正義を見いだせず、“罪”に苦悩する一人の男との戦い。MGSを彷彿とさせる世界観だなあと思っていたら、作者さんが大のMGSファンらしい。納得。


作品自体はどこまでも色のない世界。それはまるで葬儀のような静けさ。あとで調べてみたらこの作者さん、肺ガンを患って闘病しながら執筆をしていたらしい。そして本作でデビューしてから2年後に亡くなられたとのこと。ご冥福をお祈りします。

地獄はここにある、とアレックスは言っていた。
地獄は頭のなかにある。だから逃れられないものだ、と。

罪悪感の対象が死んでしまうということは、いつか償うことができる、という希望を剥奪されることだ。殺人が最も忌まわしい罪であるのは、償うことができないからだ。お前を赦す、というそのことばを受け取ることが、絶対的に不可能になってしまうからだ。
死者は誰も赦すことができない。


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