王朝懶夢譚 / 田辺聖子 / ★★★★☆

王朝懶夢譚 (文春文庫)

王朝懶夢譚 (文春文庫)

時は平安時代内大臣の娘、月冴姫は恋に恋するお年頃。そんな彼女がある日出会ったのは三百歳の天狗、外道丸であった。お坊さんの清範律師、医者の麻刈、東国からやってきた晴季、盗人の悪来丸、姫が出会う様々な男たち。外道丸とその愉快な仲間たちと協力しながら彼女は本当の愛を探し求める――


一国の姫が身分違いの男と恋に落ちるラブストーリー。一方で、天狗やら狐やら魑魅魍魎やら狼狽やら人魚やらそんなケモノたちが登場する純和風ファンタジー。最近ではよく見かける組み合わせだけど、古風な言い回しが醸しだす平安の世界観に酔いしれる。こういう趣のある作品もまた良き哉。

「女は恋だわ。愛。勲章は人にみせびらかすものだけれど、恋は心のなかの、汐満玉だわ。……誰にみせるものでもなくて、心のなかでぐんぐん、汐が満ちてくるもの。……そんなものを求めて、この道ひとすじ、が女なんだわ」

人間というものは不自由であわれなもんじゃの。そう短い人生なら、何をしてもムダではないかな。勉強しても精進しても、須臾にして世を去るのであれば、いっそ生まれてこぬほうがまし、というものじゃ。そんな短い一生に、なんの哲学、なんの人生観であろう。


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