刻まれない明日 / 三崎亜記 / ★★★☆☆

刻まれない明日

刻まれない明日

10年前、一つの町から人々だけが消えた。犠牲者は3095人。本作は残された人々の喪失と再生を描いたSFファンタジー。ときどきラブストーリー。テーマは「人を救えるのは人のみ」。10年前に大切な人を失い、喪失感の中で生きながらえても、しかし人との出逢いを通じて再び生きる希望を取り戻す。


「町」と「人」とを結びつける三崎ワールドはあいかわらず。本作で焦点が当てられているのは人と人との出逢いだが、その媒介となるのはやはり町。移り変わる時の中で凛と佇む町は同じく移り変わる人々を温かく見守り、そして想いをつないでいく。まるで一つの巨大な生き物のような、そんな「町」が少し好きになれる作品です。

二人で時の移ろいを感じながら、風に揺れる夏草を見つめていた。時はこの十年間を変わらずに刻み、それは今からも続く。街は移ろい、人もまた移ろう。それでもきっと変わらないものもある。それをこの街で見つけることができるように感じていた。

「私もあと四年で四十歳か。四十歳になるって、どんな気分なんだろう?」
想像できないのか。彼女は大げさに首を振った。
「似合わない服をプレゼントされた気分だよ。しかも……」
坂口さんはビールをひと口含み、今の気持ちをその苦味に代弁させるように、顔をしかめた。
「似合わないと思っているのは本人だけなんだ」


(22/50)