あなたのための物語 / 長谷敏司 / ★★★☆☆

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

本格SF。内容は……Amazon辺りにお任せすることにします。久しぶりの本格SFはヘビーでした。


何かを理解するということは、それを否応なく受け入れるということと同義である。わからないものは無視してもかまわない。というより無視できる。だが一度でもそれを理解してしまうと、それは望む望まないに関わらず一生まとわりついてくる。


科学技術が発達し、脳内における神経細胞の発光を観測・記録できるようになったとき、サマンサは理解してしまう。「死」を。いくら科学技術が発達したところで、それは決して人類を死の恐怖から解放してはくれない。むしろ「死」は、より明確な形となって人類の目の前に現れる。


科学に対する反定立ではないと思うが、その先が決して夢に満ち溢れているものではないということなのかもしれない。


あとやっぱり科学による死生観って面白いなあ、と。対極に存在するもの同士をつなげると真実が見えてくる。

《彼》の感情は、錯綜しながら死と恋とをつなげたのだ。死は、時間が有限であることを算出し、成長しなければならないという目的意識を刺激した。この意識は《彼》の不完全さの認識へとつながり、これを埋めるための思索を導いた。《彼》の穴を埋めるものはサマンサだった。そして《wanna be》は「好き」という感情を発明した。


(28/50)