サクリファイス / 近藤史恵 / ★★★☆☆

サクリファイス

サクリファイス

ロードレース。そこには“エース”と“アシスト”が存在する。たとえ仲間を売ってでも勝つことを宿命付けられたエース。そしてエースを勝たせることに全てを捧げるアシスト。たとえ自らを犠牲にしてでも……チーム・オッジの新人、白石誓は徐々にその才能を開花させるが、チーム・オッジには暗い過去が隠されていた。ロードレースの呪いを振り払い、夢に見たフランスで果たして彼は走ることができるのか。


勝負の世界にも関わらず、勝つことが決して全てではないロードレース。そのあまり馴染みのないスポーツを魅力的に描きながら、サスペンスという小説的な面白さをも内包する。面白い。が、個人的にこのラストはあまり好きじゃない。テーマがそうなのかもしれないが、こんな結末しかありえなかったのだろうか。うーん、不完全燃焼。


続編は『エデン』。

ときどき、思うのだ。
自らの身を供物として差し出した月のうさぎの伝説のように、自分の身体をむさぼり食ってもらえれば、そのときにやっと楽になれるのではないかと。
だが、現実にはそんなことは起こりえない。
むしろ、それは、ひどく尊大で、人の負担を強いる望みだ。
だれも、他人の肉を食らってまで生きたいとは思わないだろう。
月のうさぎは、美しい行為に身を捧げたわけではなく、むしろ、生々しい望みを人に押しつけただけなのだ。


(7)