海に沈んだ町 / 三崎亜記 / ★★★☆☆

海に沈んだ町

海に沈んだ町

町が海に沈む。それは海岸沿いだろうと、内陸だろうと関係なく、まるで地震のように、何の予告もなく訪れる。そしてある日、生まれ故郷の町が海に沈んだ。私は妻に促されて十数年ぶりに故郷を訪れた。海に沈んだ、故郷を。表題作を含む連作短編集。


三崎亜記の町シリーズ。四時八分から時間が進まない町や影が自立して動く町など、ちょっとだけ現実から乖離した町を舞台に、そこの住む町人を淡く、繊細に描いた作品。以前住んでいた街に久しぶりに戻ってみると、当時はまるで街に守られているかのように感じていたのに、もうなんとも言えない疎外感を感じてしまう。そんな気持ちを思い出す。

彼女の言う通りだ。この街も昔の活気を失い、通りには老人ばかりが目立つ。不平を言いながらも、みんなどこにも行けず、どこにも行こうとしない。
そう、この街はゆっくりと沈んでいこうとしているのだ。どこにも行けない私は、その沈みゆく様を、ただ見ていることしかできない。あの老婆と同じように。


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