アジアンタムブルー / 大崎善生 / ★★★☆☆

アジアンタムブルー (角川文庫)

アジアンタムブルー (角川文庫)

葉子が死んだ。葉のひとつひとつがちりちりに丸まり、しおれ始めているアジアンタムのように、僕は憂鬱だった。だけど僕の周りには……心優しい人たちがいた。僕は幸せだった……僕は、幸せだ。


片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』や石田衣良の『美丘』が好きな人にはオススメな作品。文章も精細で、あからさまなお涙頂戴ではなく、こういう作品にしては好感が持てた。私のジャンルではないが。

毎日、毎日、同じ場所を走り続ける循環バスのように僕たちはグルグルと同じ場所を回り続けた。同じ場所で目を覚まし、同じ場所に座り、海を眺めた。海辺に並んだ三つのベンチも、空いている限りはいつも決まってその真ん中に座った。毎日同じ場所に座り、同じマルシェに通い、同じものを食べていれば、明日も同じ日がくるのだ、そう信じたかったのかもしれない。


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