アイの物語 / 山本弘 / ★★★★★

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

ヒトとマシンの千夜一夜物語。テーマは「ヒトとマシンのあり方」。転じて、論理的、倫理的思考しかできないマシンとの対比から、不完全で不寛容なヒトの本質を紡ぎ出す。なんて言えばいいのか、あまりにも本質的すぎて言葉が思いつかない。


物語の力を信じる全てのヒトへ。

正義の名のもとに、民衆を力で弾圧する。正義の名のもとに、他の国にミサイルを打ち込む。正義の名のもとに、爆弾で罪もない市民を吹き飛ばす。みんなそれが悪だと思っていない。それが私たちの世界。

「ロボットが人間を攻撃するかもしれない」という根拠のない不安は、どこから来るのだろう。ロボットと人間の争いを描いたたくさんの物語は、どうして生まれたのだろう。それは人間がやってきたことだからではないのか。ヒトは自分たちの姿に似た機械に、自分たちの本性を投影していただけではないのか。

鳥と魚のどちらが優秀かを論じるのが無意味であるのと同じく、ヒトとマシンの優劣を論じること自体、無意味なのだ。僕たちは鳥と魚のように異なる存在だ。その事実を認識すれば、蔑みや憎しみや劣等感など生まれようがない。

私たちはヒトを真に理解できない。ヒトも私たちを理解できない。それがそんなに大きな問題だろうか?理解できないものは退けるのではなく、ただ許容すればいいだけのこと。それだけで世界から争いは消える。
それがiだ。


(12/50)