きつねのはなし / 森見登美彦 / ★★★☆☆

きつねのはなし

きつねのはなし

古道具屋『芳蓮堂』を中心とした連作短篇集。森見作品の中では異色の、まあ言うなればホラー。怪談。人に在らざるモノを描いている点では通じるものがあるが、作品全体の色が今までとは違った。淡い和色だったのが、吸い込まれそうな黒に。ちょっと身が涼しくなります。


なんか伏見稲荷って、怖いよね。

「ちょうど今、探して欲しいものがある。それを見つけてきてくれれば、ヒーターは返そう。探してくれるか?」
私が返答に窮していると、彼はふいに骨張った十指をひらいて、顔を包み込み、大げさに泣き崩れているような格好をした。掌に覆われた顔が暗くなり、指の隙間から眼球がのぞいていた。私は驚いて彼の仕草を見つめた。
「狐の面だよ」


(38/50)