黄金を抱いて翔べ / 高村薫 / ★★★★★

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

銀行の地下三階に眠る6トンの金塊。金額にして百億。それが彼らの目標だった。綿密に計画される強奪計画。しかし、敵は厳重な警備だけではなかった。北の工作員に左翼団体。虎視眈々と命を狙われながらも、しかし、彼らの信念もまた揺るぎなかった。三つ巴の戦いの中、果たして彼らは無事生き残ることができるのか。そして金塊強奪の行方は。アウトローに生きる者たちの戦いを描いたハードボイルドな犯罪小説。


映像化されるということで再読。まさに高村薫の原点とも言える作品。北とか南とか左とか右とか、そういった政治の黒い部分を大胆に使いながら、状況描写のディテールにはとことんこだわる。高村さんの取材力の高さに改めて感嘆する。そしてアウトローに生きながらもどこか人間臭さを感じさせる登場人物たち。頼れるものがないからこそ、彼らの生き様もまたかっこいい。


はじめて読んだときの衝撃はなかったものの、やはり名作だなあ、と。映像化向きの一冊。

フェンスの向こうに沈む街に、朝もやが立った。泥色の屋根の群れが輝き出した。アサヒビールの煙突の煙が、ほぼ真っ直に立ち上っていた。風はなかった。操車場で動き始めた列車の音が、よく通って聞こえた。
天気は快晴。師走の大阪を、世紀の大泥棒が駆ける日だった。


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